以前からお名前は伺っていたものの、なかなか現地へお邪魔できていなかったワイナリーがありました。大分県、阿蘇くじゅう国立公園に位置する「久住ワイナリー」。全くの無名からわずか2年で日本ワインコンクールの上位へと躍り出たその背景には、九州の常識を覆す過酷なテロワールと、退路を断ってワインに向き合った一人の醸造家の、凄まじいまでの探究心がありました。
阿蘇くじゅう国立公園、標高850m。ここは夏でも夜温がぐっと下がる、暑い九州のイメージを覆す非常に冷涼な高山地です。火山灰土壌が育むブドウからは、凛とした酸と澄んだ透明感を持つワインが生まれます。しかし、かつては「観光地のお土産ワイン」という厳しい評価に甘んじていた時代がありました。
そのイメージを塗り替えたのが、醸造責任者・土持浩嗣さんです。元々は経営側だった彼に転機が訪れたのは2018年。前任の醸造家が突如退職し、未経験の彼が「自分がやるしかない」と醸造のバトンを引き継ぐことになったのです。彼は「やるからには世界に認められる本気のワインを造る」と、自らに『3年以内の入賞』という試練を課しました。
知識ゼロからの醸造。昼夜を問わずワインと向き合う孤独な日々を、工場の窓からずっと見守り続けたのが二匹のワイナリーキャットでした。猫たちの存在が、一切の妥協を許さない土持さんの唯一の癒やし。そこから生まれたのが、猫をモチーフにした「Catwalk」シリーズです。そして彼は、わずか2年で見事に入賞という有言実行を成し遂げました。
実はお酒がそこまで強くないという土持さん。だからこそ、彼は主観に頼らず、徹底的にデータを分析しました。醸造初期には30種類以上もの試験的な醸造を繰り返し、「この品種にはこのアプローチ」という論理的な最適解を模索し続けました。その実直で研究者気質なこだわりが、今の久住のクオリティを支えています。
今回、最も衝撃を受けたのが「久住 EBONY」。山ぶどうとメルローの交配から生まれる、漆黒(エボニー)の名にふさわしい深く濃い色味。山ぶどうの野生的な生命力と、久住ならではの凛とした洗練さが共存するこの味わいは、ペアリングの可能性を大きく広げてくれるはずです。